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京都地方裁判所 昭和48年(行ウ)7号 判決

京都市左京区修学院鳥丸町一五番地

原告

塚本義照

京都市左京区聖護院円頓美町一八番地

被告

左京税務署長

渡辺裕泰

右被告指定代理人

丸山稔

曽我康雄

久保田正男

仲村義哉

樋口勝

東京都千代田区霞ヶ関三の一の一中央合同庁舎四号館

被告

国税不服審判所長

海部安昌

右被告指定代理人

辻本勇

尾花政規

右被告両名指定代理人

細井淳久

関襄

鳴海雅美

中山昭造

主文

一  原告の被告左京税務署長に対する訴えをいずれも却下する。

二  原告の被告国税不服審判所長に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告左京税務署長(以下被告税務署長という。)が、昭和四一年一二月二〇日付で原告に対してなした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を更正した処分及び同年分所得税の過少申告加算税賦課決定処分(以下単に本件更正処分等という)を取消す。

2  被告税務署長が、昭和四五年一〇月一二日付でなした別紙目録一記載の不動産に対する不動産差押処分を取消す。

3  被告国税不服審判所長(以下被告審判所長という。)が、昭和四八年一月三一日付で原告に対してなした裁決のうち、別紙目録一の(一)ないし(三)記載の不動産に対する部分を取消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告税務署長の答弁

主文一、三項と同旨。

三  請求の趣旨に対する被告審判署長の答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告の訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

主文の二、三項と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告税務署長に対し昭和四〇年分の所得税の総所得金額を確定申告したところ、同被告は昭和四一年一二月二〇日付で本件更正処分等を行なった。

原告は、これを不服として同被告に対し異議の申立をしたが、同被告はこれを棄却するとの決定をなした。そこで、大阪国税局長に対して審査請求したところ、同国税局長は昭和四四年五月一七日付で本件更正処分等の一部を取消す旨の裁決をなした。

ところで、被告税務署長のなした本件更正処分等は、原告が別紙目録二記載の各家屋を他に売却したことにより生じた譲渡所得が申告もれになっていたことを理由としてなされたものであるが、原告は、右家屋の売買に際し相手方から欺罔され、契約当事者である買主の点につき錯誤に陥ったためになしたものであって、右売買契約は要素の錯誤により無効である。したがって、右売買によって、譲渡所得は発生しなかったにもかかわらず、所得が発生したものとして被告税務署長のなした本件更正処分等は違法である。

2  被告税務署長は、本件更正処分等に基づき、昭和四五年一〇月一二日付で原告の所有する別紙目録一記載の各不動産を差押処分に付した。原告はこれを不服として、昭和四五年一二月一一日付で被告税務署長に異議の申立をしたが、同被告は同四六年一月七日これを棄却するとの決定をなした。

そこで、原告は同年二月一二日付で被告審判所長に対して審査請求をしたところ、同被告は、同四八年一月三一日付で被告税務署長のなした本件差押処分のうち別紙目録一の(四)記載の不動産に対する差押処分を取消す旨の裁決をなし、同裁決は同年二月一一日に被告に送達された。

しかし、本件更正処分等は、前記のとおり違法であるから、右更正処分等に基づいて被告税務署長のなした本件差押処分及び同差押処分を別紙目録一の(一)ないし(三)記載の不動産に対する限度で是認した被告審判所長の右裁決はいずれも違法である。また、被告審判所長は、被告税務署長が課税年度を誤って本件差押処分をなしたにもかかわらず、右差押処分を正当としてこれを維持したが、課税年度の誤りは重大な瑕庇であるから、これを正当であると判断した右裁決には裁決固有の瑕庇があり、取消を免れない。

3  よって、原告は被告両名に対し、それぞれ請求の趣旨記載のとおりの裁決を求める。

二  被告税務署長の本案前の主張

1  被告税務署長のなした本件更正処分等については、大阪国税局長に審査請求がなされ、これに対する同局長の裁決が、昭和四四年五月一七日付でなされた。ところで、原告は右更正処分等につき、これを不服として同年九月一三日付で取消の訴え(当庁昭和四四年(行ウ)第三一号)を提起したが、同訴状に右裁決の裁決書謄本の写しを添付していることからみて、原告は右裁決書謄本の送還された同年六月二五日ごろ、あるいは遅くとも右訴えの提起された同年九月一三日ごろまでには右裁決があったことを知っていたものである。なお、右訴えは、同四五年六月六日の休止満了をもって取下げがあったものとみなされている。

よって、本件訴えは、原告が右裁決のあったことを知った日(昭和四四年六月二五日ごろ、または遅くとも同年九月一三日ごろ)から三箇月を経過し、又は右裁決の日(昭和四四年六月二五日ごろ)から一年を経過して提起されたものであるから、行政事件訴訟法一四条一項または三項に違反しており、不適法として却下を免れない。

2  被告税務署長は、本件差押処分のうち、別紙目録一の(一)ないし(三)記載の不動産に対する差押を昭和四八年四月二日付で、同目録(四)記載の不動産に対する差押を同年二月一五日付でそれぞれ解除した。

よって、右差押処分は何れも存在しないから、原告の本件訴えは、その利益を欠き不適法である。

三  被告審判署長の主張

原告は被告審判所長が昭和四八年一月三一日付で原告に対してなした裁決の取消を求める理由として、課税年度の誤りを主張しているが、これは本件更正処分等の違法の理由として主張すべき事実である。

よって、原告の本件訴えは、行政事件訴訟法一〇条二項に反し、不適法である。

また、仮に本件訴えが適法であるとしても、原告は右裁決の違法理由となるべき事実の主張をしていないから、本訴請求は理由がない。

四  被告税務署長の本案前の主張に対する原告の認否

被告税務署長の本案前の主張のうち、別紙目録一記載の各不動産に対する差押が解除された事実は認める。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証を提出。

2  乙号各証の成立は全て認める。

二  被告等

1  乙第一、第二号証、第三号証の(一)ないし(四)、第四号証を提出。

2  甲第一号証の成立は認める。

理由

一  被告税務署長に対する本件更正処分等の取消請求について成立に争いのない乙第三号証の一ないし四によれば、原告は本件更正処分等の取消を求める訴え(当庁昭和四四年(行ウ)第三一号)を昭和四四年九月一三日付で提起したが(同事件が昭和四四年九月一三日提起されたことは当裁判所に顕著な事実である。)、右事件の訴状に本件更正処分等に関する裁決書謄本の写しを添付していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告は遅くとも同四四年九月一三日までに裁決書騰本の送達を受け、その結果遅くとも同日ごろまでには右裁決の存在を知ったものと推認されるが、原告が同四八年五月九日付で本件訴えを提起したことは一件記録上明らかであるから、原告は裁決の存在を知った日から三箇月を経過した後に本件訴えを提起したものといわなければならない。そうすると、本件更正処分等の取消を求める本件訴えは、行政事件訴訟法一四条一項に規定された出訴期間経過後に提起されたものであるから不適法として却下を免れない。

二  被告税務署長のなした本件差押処分の取消請求について

被告税務署長が別紙目録一の(一)ないし(四)記載の不動産に対してなした本件差押処分が、被告税務署長主張のとおり昭和四八年二月一五日及び同年四月二日にすべて解除されたことは原告と被告税務署長との間において争いがない。そうすると、原告が本訴において取消を求める本件差押処分は存在しないから、本件訴えはいわゆる訴えの利益を欠くことになり、不適法として却下を免れない。

三  被告審判所長に対する請求について

原告は被告税務署長のなした本件差押処分が違法な本件更正処分等に基づいてなされ、あるいは課税年度を誤ってなされた違法な処分であるにもかかわらず、これを正当であるとして是認した被告審判所長の本件裁決は違法であると主張し、その取消を求める。とくに、右のうち課税年度が誤っているにもかかわらずなされた本件差押処分を維持した被告審判所長の裁決には裁決固有の瑕庇があると主張する。

ところで、行政事件訴訟法一〇条二項によれば、原処分の違法は処分取消の訴えによってのみ主張することができ、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決取消の訴えにおいては、原処分の違法を理由としては取消を求めることができず、裁決固有の違法のみを主張することができるものと定められている。しかるに原告の右主張にかかる右裁決の違法事由は、すべて原処分たる本件差押処分の違法事由に関するものであって、右裁決の固有の瑕庇を主張しているものではない(「課税年度の誤り」に関する主張も裁決固有の瑕庇の主張とは認め難い)。

したがって、右規定に反する原告の主張は、主張自体失当であり、本訴請求は棄却を免れない。

四  結論

よって、原告の本訴請求のうち、被告税務署長に対する訴えは不適法であるから却下し、被告審判所長に対する請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 孕石孟則 裁判官 安原清蔵)

目録一

(一) 京都市上京区河原町通今出川下ル大宮町三二三番地の三

宅地   六四・四六平方メートル

(二) 右地上所在

家屋番号同町一四番地三

木造瓦葺二階建店舗

延床面積 一〇七・一〇平方メートル

(三) 同町三二三番地

家屋番号同町一五番

木造瓦葺二階建居宅

延床面積  六二・八〇平方メートル

(四) 同町三二三番地の四

宅地   七〇・二四平方メートル

目録二

京都市上京区河原町通今出川上る青竜町二六六番地所在

家屋番号同町七九番

一 木造瓦葺二階建店舗

一階 六九・〇五平方メートル

二階 七〇・五一平方メートル

一 木造瓦葺二階建便所

一階 一一・五七平方メートル

二階 一一・五七平方メートル

一 木造瓦葺二階建物置及び居宅

一階 四三・四〇平方メートル

二階 三七・二五平方メートル

一 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置

建坪 八・七九平方メートル

京都市上京区出町通今出川西入三芳町一五三番地所在

家屋番号同町四六番

一 木造スレート葺平家建校舎

建坪 一〇三・四三平方メートル

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